「羊ハウス」のこと 演出:南より

05
10月
2015
Posted by: mscrew   /   0 Comment

 タイトルを見た人、あるいは聞いた人から一様にシェハウス仲介の「ひつじ不動産」からとったんでしょうと、言われてしまう。出演者の一人Iさんにもこの話をしたら「違うんですか?」と逆に質問をされてしまった。Iさんは実生活においてもシェアハウス暮らしをしていて、実際、「ひつじ不動産」さんの物件を内見したことがあるとのことだった。「ひつじ不動産」さん、大手だ、実績もありそうだ、実に大きな存在だ。
 商店街に面した2Fの仕事部屋の窓から「いるか歯科」という歯医者さんが正面右手下に見える。名前のせいもあってか、子どもさんの患者の数が多いみたいで、夕方や休日にいきなり子どもの泣き声が聞こえたりもする。名前は優しくても子どもにとって歯医者さんが怖いのは今も昔も変わらない。
 「いるか歯科」、なるほど「いるか」もほ乳類なのだから歯はあるのだろうけど、それにしてもまたずいぶんと思い切ったいい名前だ。子どもだけじゃなく、歯医者嫌いな大人にも怖くない優しい歯医者さんのイメージを目指そうとしたのだろうということが容易に想像される。けれども、もちろん、そればかりではない、それはすぐに小説「羊をめぐる冒険」の中に登場する架空のホテル「いるかホテル」を連想させた。そうなのだ、つまりは、結局はそちらの「羊」なのだ。

 今回のお芝居、まず最初に作家の原稿に最初にあったのは、仮題「南風荘」のこと だった。
 この「南風荘」というのは実は作家と20年以上前に劇団をやっていた頃に製作したラジオドラマのタイトルでもあった。なぜか、「ニューミュージックマガジン」のレビューにも取り上げられ、そこそこ悪くない評価をいただいたりもしたのだが、さすがに今更それはないだろうとも思った。思ったけれど、あくまで「仮題」とあったのでそのまま触らずに保留にしていた。その後、改めて送られてきた原稿には今度は「ウエディングソング」という「仮題」がつけられていた。実はここだけの話、タイトル付けが二人とも苦手なのだ。前作「すだま」はまだしもその前の作品のタイトルは「死神」だ。その流れから行くと「貧困」とか「乗換」とか困ったタイトルをつけかねない我々だ。
 けれども今回はカタカナだ。いいかもしれないと思ったところに、結婚式場で働く身近な人物から「ちょっと待った」の声がかかった。悪くないのかもしれないけどたとえば、評判がよかったと聞いた人間が、そのタイトルから思い浮かべるイメージは、結局はテレビドラマ的な月並みな恋愛を通した人情物語程度のものだろうし、そんなふうに思われるのは悔しすぎるという意見だった。もっともな意見だった。やっぱりタイトル付けは難しい。難しいことはしばらく放置して最後に考えてみるというのが身につけた処世術だ。で、しばらく放置しておこうとベランダでぼんやりしていたら「いるか歯科」が見えた。当たり前だ。真ん前にあるのだし、建物が倒壊するか、もしくはこちらが失明でもしない限りは見えなくなんてならないのだ。で、仕方がないから「いるかハウス」と考えてみた。まんまだ。歯科ならまだしもハウスとホテルは近すぎる。ベルギーの劇場ロゴと五輪のロゴほどに近い。だったら「羊ハウス」ならどうだ。「南風荘」のことに立ち戻って、「羊ハウス」のこと ならどうだ。
 作家にその旨を告げてからひと月近く、次々と原稿はいつにないハイペースで送られて来たが、ワードのデータのタイトルは「ウエディングソング」のままだ。お気に召さないかなと思っていたのだが、それからほどなくタイトルが 『羊ハウス』のこと に変わっていた。しばらく寝かせてからよしとしてくれたのだ。
 そしてその後、こんな台詞も登場した。

佳奈 「羊ハウス」っていう名前は
大田原 私が付けました。
佳奈  どういう意味なんですか
大田原 意味は説明しないことにしているんです。むしろ、100人が聞いたら100のイメージを持ってもらう方がいいんだろうなと思って

 つまりはそういうことだ。
 多くの人にみてもらい、その人だけの気持ちを抱いてもらう。そういう劇を今後も作り続けていきたい。

 以上がタイトルをめぐるあれこれだ。

 なので、「ひつじ不動産」さん、どうかご寛容いただけないでしょうか。
 決して例の「パクリ」なんてものではないのです、はい。

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